悪坊
▲悪坊 なうなう御坊(ごぼう)、さる御方(おかた)で酒を飲うだが、我(おれ)は酔わぬと思へども、歩かれぬほどに、手を引いておくれやれ。 ▲僧 いやはや、手は引きませうが、その長刀(なぎなた)がいかう(たいへん)あぶなうござりまする。 ▲悪坊 ふん、杖についたがあぶのうおぢゃるか。持ちやうがおぢゃる。こうでは何とおぢゃる。 ▲僧 は、いやはや、それでは気遣(きづか)いもござりませぬ。 ▲悪坊 御坊(ごぼう)、か(抱)いこうだ長刀の出様(でやう)は、早からうか、遅からうか ▲僧 何とござりませうぞ。 ▲悪坊 手を離しやれ。一手使うて見せう。 ▲僧 は、いや、おかしやれませう。 ▲悪坊 はて、離しやれてや。 ▲僧 はゝ。 ▲悪坊 御坊、して、今のさへやうが面白うおぢゃる。その傘(からかさ)の切口を見せう。 ▲僧 はて、置かつしやれませい。 ▲悪坊 あゝ、使はうと思へども、酒に酔ふたによつて、脛(すね)がながれて使はれぬ。これでは行かれまいほどに、ちとこの所にまどろも。御坊、この小袖を跡に打ち掛けて、腰を打つてくりやれ。 ▲あ。 ▲悪坊 やい其処な坊主、今のは何といな打ちやうぢゃ。おのれ坊主でなくば首を刎ねうずれども、ゆるす。来てとくとくと打ち居れ。 ▲僧 あ。扨も嬉(うれ)しい事がござる。まんまんと寝入らせました。扨も扨も憎い奴かな。何と致したものでござろう。あゝ、思いついた事がござる。(「狂言記」) このあと、僧は、悪坊の長刀や衣を奪ってしまいます。悪坊は、発心して僧となります。
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